「虎に翼」の脚本を手がけたのは、30代の気鋭の脚本家・吉田恵里香さんです。彼女の緻密な脚本が、この作品の大きな魅力の一つとなっています。
吉田さんは、単なるリーガルドラマに留まらず、法律家を志した女性たちの長年にわたる友情譚としても物語を描き上げました。主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)と明律大法学部の仲間たちの関係性が、戦前から戦後にかけて丁寧に描かれています。
また、法曹界の歴史とドラマをシンクロさせた点も特筆すべきでしょう。原爆裁判や尊属殺人罪の重罰規定など、実際の裁判例を巧みに物語に織り込んでいます。これにより、ドラマとドキュメンタリーを同時進行で見ているような臨場感が生まれました。
主人公の佐田寅子は、日本初の女性弁護士の一人である三淵嘉子さんをモデルにしています。しかし、単なる偉人伝にとどまらない魅力的なキャラクター性が、視聴者の共感を呼んでいます。
寅子は、判事でありながら必ずしも「正しく」「完璧」ではありません。常に誰かの言ったことに「はて?」と疑問を投げかけ、時には周囲を困惑させるような言動をとります。しかし、そんな彼女の姿勢が、「正しくなくてもいい、完璧じゃなくてもいい」というメッセージを強く印象づけています。
この「自分らしさ」を貫く姿勢は、現代の視聴者、特に若い世代にも強く響いているようです。
「虎に翼」は、単に過去の法曹界を描くだけでなく、現代にも通じる問題を提起しています。特に、憲法第14条「法の下の平等」をメインテーマに据えた点が、ドラマの骨格を形作っています。
ドラマ内では、男女差別をはじめとするさまざまな差別や偏見が描かれます。これらは、残念ながら現代社会にも依然として存在する問題です。寅子たちが平等を追求し続ける姿は、現代の視聴者にも強いメッセージを投げかけています。
法曹界の歴史を丁寧に描きつつ、現代の問題にも切り込むという二面性が、このドラマの深みを増しているといえるでしょう。
「虎に翼」の魅力は、脚本や演技だけでなく、その演出や撮影技法にも表れています。特に、時代劇的な要素と現代的な映像表現を融合させた独特の雰囲気が、視聴者を惹きつけています。
例えば、戦前や戦中の場面では、セピア調の色彩や古びた質感を用いることで、時代感を巧みに表現しています。一方で、法廷シーンなどでは、ダイナミックなカメラワークや緊迫感のある音楽を使用し、現代的なドラマの臨場感を演出しています。
このような演出の工夫が、「虎に翼」を単なる時代劇や法廷ドラマとは一線を画す作品に仕上げています。
「虎に翼」が若い世代、特にF1層(20〜34歳の女性)から支持を得ている理由の一つに、SNSとの親和性が挙げられます。
ドラマの展開に合わせて、視聴者がTwitter(現X)やInstagramなどのSNSで感想を共有する「実況」が活発に行われています。特に、法律に関する専門的な内容や歴史的な事実について、視聴者同士で情報を共有し、議論を深める様子が見られます。
また、主演の伊藤沙莉さんをはじめとする若手俳優たちの演技力も、若い世代の支持を集める要因となっています。彼らの演技が、時代を超えた普遍的なテーマを現代の感覚で表現することに成功しているのです。
このように、「虎に翼」は従来の朝ドラの枠を超えて、幅広い世代、特に若い視聴者の心をつかむことに成功しています。法曹界の歴史という重厚なテーマを、現代的な演出と若い感性で描き出したことが、この異例のヒットにつながったと言えるでしょう。