「虎に翼」の物語が三条市に舞台を移した際、杉田太郎(高橋克実)は寅子(伊藤沙莉)を大歓迎で迎えます。しかし、その態度には何か裏があるのではないかと視聴者の間で疑念が生まれました。
杉田は寅子に花束を渡し、「田舎じゃ、持ちつ持たれつですけ。どうぞ」と親切そうに振る舞います。しかし、寅子が去った後に舌打ちをする様子が描かれ、その真意が不明瞭なままでした。
この初登場シーンは、視聴者に「胡散臭い」「花岡(岩田剛典)みたい」という印象を与え、杉田の人物像に対する興味を喚起しました。
物語が進むにつれ、杉田太郎の複雑な背景が明らかになります。第17週のラストで、杉田が1945年の長岡空襲で娘と孫娘を失っていたことが判明し、視聴者に衝撃を与えました。
この事実は、杉田の行動や言動に新たな解釈を与えることになります。表面的には冷淡に見える態度の裏に、深い悲しみと痛みが隠されていたのです。
高橋克実は、この役を演じるにあたって「空襲で家族を亡くすという悲劇に直面した人を演じるのは、やっぱり難しい」と語っています。実際の体験者ではない俳優が、このような深い悲しみを表現することの難しさが伺えます。
杉田太郎の人物像が大きく変化したのは、航一(岡田将生)に向けた言葉がきっかけでした。航一が戦争中の罪悪感を告白した際、杉田は次のように語りかけます。
「おめさんは、よっぱら苦しんだ……。だけえ、気に病むことはねえ。へえ謝らんだっていいって」
この言葉は、杉田自身の経験に基づいた深い共感から生まれたものです。戦争で家族を失った痛みを知る杉田だからこそ、航一の苦しみを理解し、寄り添うことができたのです。
この場面を見た視聴者からは、「杉田兄の言葉が深い」「人の痛みがわかる人」といった感想が多く寄せられ、杉田の印象が大きく変化しました。
杉田太郎の魅力の一つに、三条弁の使用があります。高橋克実自身が三条市出身であることから、本格的な三条弁を披露しています。
特徴的なのは、「らて」「こて」といった語尾の使用です。例えば、「カフェラテらて」という表現は、三条弁の特徴を端的に表しています。また、「バカ」という言葉を「とても」「すごく」の意味で使用するなど、地域特有の言葉遣いが随所に見られます。
高橋克実は、この役を通じて三条弁の魅力を全国に広めたいという思いを持っており、積極的に方言を取り入れています。これにより、杉田太郎という人物に地域性と独特の味わいが加わっています。
杉田太郎は、単なる脇役ではなく、物語の展開に重要な影響を与える存在となっています。彼の存在は、主人公・寅子の成長や、戦後の日本社会が抱える問題を浮き彫りにする役割を果たしています。
特に、差別や偏見の問題に関して、杉田は重要な視点を提供しています。例えば、朝鮮籍の青年を弁護する場面では、杉田自身の偏見と向き合う姿が描かれ、視聴者に深い考察を促しています。
また、杉田と弟・次郎(田口浩正)のコンビは、ドラマに独特の味わいを加えています。高橋克実と田口浩正の息の合った演技は、視聴者からも好評を博しています。
杉田太郎という人物を通じて、「虎に翼」は単なる法廷ドラマを超え、戦後日本の複雑な社会問題や人間模様を描き出すことに成功しているのです。