「虎に翼」の美術セットは、ドラマの世界観を支える重要な要素です。美術チームは、1930年代から戦後の日本を忠実に再現するため、徹底した時代考証を行っています。家具や小物に至るまで、細部にこだわって選定されており、視聴者を当時の雰囲気に引き込む効果があります。
美術統括の日髙一平さんとデザイナーの川名隆さんによると、セットの色味を控えめにすることで、衣装の色味を引き立たせる工夫がなされているそうです。これにより、戦前の華やかな着物から戦時中の地味な服装への変化が、より印象的に表現されています。
猪爪家のセットは、物語の中心となる重要な舞台です。美術チームは、家族の絆や時代の変化を表現するため、細心の注意を払ってデザインしています。
寅子の部屋は、彼女の性格や成長を反映させたデザインになっています。本棚には多くの本が置かれ、勉強熱心な寅子の姿勢が表現されています。同時に、テーブルかけや千代紙を使った補修など、さりげない「可愛らしさ」も取り入れられています。
また、寅子のテーマカラーである黄色が、カーテンなど随所に散りばめられているのも特徴です。これにより、寅子の存在感が視覚的にも強調されています。
法廷のセットは、時代の変化とともに変遷していきます。戦前の法廷は、裁判官と検察官の座る位置が高く設定されており、当時の官民の格差を視覚的に表現しています。
戦後になると、家庭裁判所のセットでは、壁や家具の木目の色が明るくなり、ベニヤを使用するなど、威圧感を与えないつくりになっています。これは、家庭裁判所の理念である「家庭に光を、少年に愛を」というスローガンを反映したデザインです。
地方裁判所のセットは、戦前のゴシック調の法廷と現代の法廷の中間的なデザインになっており、時代の推移を感じさせます。
カフェー「燈台」は、登場人物たちが集う重要な場所です。このセットは、当時の喫茶店の雰囲気を忠実に再現しつつ、ドラマの世界観に合わせたデザインになっています。
壁には当時流行した絵画のレプリカが飾られ、テーブルや椅子も1930年代のスタイルを意識して選ばれています。また、照明や食器類にも細心の注意が払われ、視聴者を当時の空間に引き込む効果を生み出しています。
カフェーのセットは、単なる背景ではなく、登場人物たちの交流や心情の変化を表現する重要な舞台装置としての役割も果たしています。
ドラマの進行に伴い、セットも戦時中から戦後への変化を反映しています。戦時中は全体的に暗い色調が用いられ、物資不足を表現するために家具や小物が少なくなっています。
戦後になると、徐々に色彩が戻り始め、新しい時代の到来を感じさせるデザインに変化していきます。特に、家庭裁判所のセットでは、「光と翼」をイメージしたステンドグラスが印象的です。
この変化は、単に時代背景を表現するだけでなく、登場人物たちの心情の変化や希望の芽生えを視覚的に表現する役割も果たしています。
法律を学ぶ寅子たちの姿を表現するため、セットには多くの法律書が配置されています。これらの本は単なる背景ではなく、重要なプロップス(小道具)として機能しています。
美術チームは、当時実際に使用されていた法律書を参考に、表紙のデザインや装丁を忠実に再現しています。中には、現在では入手困難な貴重な法律書のレプリカも含まれており、法律の専門家からも高い評価を得ています。
これらの法律書は、単に時代背景を表現するだけでなく、寅子たちの勉学への情熱や、法曹界での奮闘を象徴する重要な要素となっています。
以下のリンクでは、「虎に翼」の美術セットに関するより詳細な情報が提供されています。
また、以下のYouTube動画では、実際のセット制作の様子が紹介されています。
「虎に翼」の美術セットは、単なる背景以上の役割を果たしています。時代考証に基づいた緻密なデザインと、物語の展開に合わせた細やかな変化により、視聴者をドラマの世界に引き込む重要な要素となっています。
美術チームの努力により、「虎に翼」は単なるドラマではなく、1930年代から戦後の日本社会を体感できる「タイムマシン」のような作品となっています。セットの細部に至るまでのこだわりが、ドラマの臨場感と説得力を高め、視聴者に深い感動を与えているのです。
今後も、ドラマの展開とともに変化していく美術セットに注目することで、「虎に翼」をより深く楽しむことができるでしょう。時代の空気感や登場人物の心情の変化を、視覚的に感じ取ることができる「虎に翼」の美術セットは、ドラマ制作における美術の重要性を改めて認識させてくれる素晴らしい例と言えるでしょう。