NHK連続テレビ小説「虎に翼」の主題歌「さよーならまたいつか。」は、シンガーソングライターの米津玄師が手掛けた楽曲です。この曲は、従来の朝ドラ主題歌とは一線を画す特徴を持っています。
まず、歌詞の内容が従来の朝ドラ主題歌とは大きく異なります。一般的な朝ドラ主題歌は、さわやかで前向きな歌詞が多いのですが、「さよーならまたいつか。」は力強さと生々しさを併せ持つ歌詞となっています。
例えば、サビの部分には「口の中はたと血が滲んで 空に唾を吐く」という生々しい表現が含まれています。これは、主人公・猪爪寅子が直面する困難や、それに立ち向かう強さを表現したものと解釈できます。
また、曲調もポップでありながら、四つ打ちのリズムを基調とした小気味よいテンポが特徴的です。これは、主人公がエネルギッシュに前進していく様子を表現しているとも言えるでしょう。
米津玄師の主題歌に関するインタビュー記事:
https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi26
米津玄師は、この楽曲を制作するにあたり、主観的な視点で歌詞を書くことを選択しました。これは、女性の地位向上を描くドラマの主題歌を男性である自身が担当することへの葛藤から生まれた決断でした。
米津は、客観的な立場から「応援ソング」を作ることは無責任だと感じ、あえて主観的な視点で歌詞を書くことを選びました。これにより、ドラマの主人公・寅子の心情により深く寄り添った歌詞が生まれたと言えるでしょう。
特に、「人が宣う地獄の先にこそ わたしは春を見る」という歌詞は、寅子が母親との対話で語った「私には私の生き方がある」という思いを反映しています。この歌詞は、社会の常識や周囲の期待に縛られず、自分の信念を貫く寅子の姿勢を表現しているのです。
米津玄師は、この楽曲に「キレ」が必要だと考えました。ここでいう「キレ」とは、怒りや強いエネルギーを表す意味です。これは、日本初の女性弁護士として道を切り開いていく主人公・寅子の姿勢を表現するために不可欠だと考えたからです。
「キレ」の表現は、歌詞だけでなく、米津の歌唱にも表れています。特にサビの部分では、やや荒々しい歌い方を採用しており、これが曲全体の印象を強烈なものにしています。
この「キレ」のある表現は、従来の朝ドラ主題歌にはない新しい要素であり、「虎に翼」という作品の革新性を音楽面でも表現することに成功していると言えるでしょう。
「さよーならまたいつか。」は、朝ドラ史上初の試みとも言える主題歌です。従来の朝ドラ主題歌は、ドラマの世界観を表現しつつも、視聴者に寄り添い、励ますような歌詞が多かったのに対し、この曲は主人公の内面により深く踏み込んだ内容となっています。
また、朝ドラ主題歌としては珍しく、社会問題や女性の地位向上といったテーマを直接的に扱っている点も特筆すべきでしょう。これは、「虎に翼」というドラマ自体が、従来の朝ドラとは異なる社会性の強い作品であることを反映しています。
さらに、最終回のエンディングでは、主人公・寅子が「さよーならまたいつか。」という歌詞を口パクで歌うシーンが挿入されました。これは、主題歌とドラマの世界観が完全に一体化した瞬間であり、視聴者に強い印象を与えました。
「さよーならまたいつか。」は、視聴者からも大きな反響を呼びました。特に、従来の朝ドラ主題歌とは異なる力強さや生々しさが、多くの視聴者の心に響いたようです。
SNS上では、「トラつばロス」「素敵な最終回」「トラちゃん、ありがとう。さよーならまたいつか。」といった声が多数寄せられました。特に最終回での主題歌の使われ方に感動したという声が多く、「主題歌の入り方が鬼。こんなの泣くに決まってんじゃん(号泣)」といったコメントも見られました。
また、この主題歌は「虎に翼」というドラマの内容と深く結びついていたため、ドラマの印象をより強くする効果があったと言えるでしょう。視聴者は、主題歌を聴くことで、ドラマの世界観や主人公・寅子の心情をより深く理解し、共感することができたのです。
「虎に翼」最終回の視聴者の反応に関する記事:
以上のように、「虎に翼」の主題歌「さよーならまたいつか。」は、従来の朝ドラ主題歌とは一線を画す革新的な楽曲でした。米津玄師の主観的な視点から生まれた歌詞、「キレ」のある表現、そしてドラマの世界観との深い結びつきが、この楽曲を特別なものにしています。
この主題歌は、単なる背景音楽ではなく、ドラマの内容を深く理解し、視聴者の心に強く訴えかける力を持っていました。それは、音楽の力とドラマの力が見事に融合した結果と言えるでしょう。
今後の朝ドラ主題歌も、「さよーならまたいつか。」の成功を参考に、より深みのある、ドラマと一体化した楽曲が生まれることが期待されます。そして、それによって朝ドラという作品がさらに豊かな表現を獲得し、視聴者の心により深く響くものになっていくのではないでしょうか。