「すんとする」という表現は、朝ドラ「虎に翼」のヒロイン、猪爪寅子の特徴的な口癖として注目を集めています。この言葉は、公の場で女性が急に控えめになり、無口になることを表現しています。寅子はこの態度に違和感を覚え、疑問を投げかけます。
「すんとする」の背景には、昭和初期の日本社会における男女の不平等な関係が反映されています。女性が自分の意見を抑え、男性に従順な態度を取ることが美徳とされていた時代の空気感が、この言葉に凝縮されているのです。
ドラマでは、結婚式や公の場面で、それまで活発だった女性たちが突然「すん」となる様子が描かれます。これは単なる態度の変化ではなく、当時の社会規範や期待に応じて女性が自己を抑制する姿を象徴しています。
寅子は「すんとする」女性たちを見て、なぜ自分の意見を言わないのかと疑問を抱きます。彼女の視点は、当時の社会通念に対する鋭い批判となっています。寅子は、女性も男性と同様に自分の意見を持ち、表現する権利があると考えています。
この態度は、日本初の女性弁護士を目指す寅子の人生観と密接に結びついています。彼女は「すんとする」ことを拒否し、自分の意志を貫こうとします。これは、当時の社会に対する挑戦であり、女性の権利と自由を求める運動の萌芽とも言えるでしょう。
「すんとする」という態度が求められた昭和初期の日本社会では、女性の社会進出はまだ限られていました。教育の機会も男女で大きな差があり、女性の職業選択の幅も狭いものでした。
当時の民法では、女性は結婚すると夫の家に入り、財産権も制限されていました。このような法制度の下で、女性が公の場で自己主張することは難しく、「すんとする」ことが求められたのです。
内閣府男女共同参画局の白書で、当時の女性の社会的地位について詳しく解説されています。
現代社会では、法制度上の男女平等は実現していますが、「すんとする」という態度の名残は依然として見られます。例えば、職場でのミーティングで女性が意見を言いづらい雰囲気があったり、家庭内での決定権が男性に偏っていたりする場面があります。
一方で、「すんとする」ことを拒否し、自己主張する女性も増えています。SNSなどを通じて自分の意見を発信したり、政治や経済の分野でリーダーシップを発揮したりする女性が増えているのは、大きな変化と言えるでしょう。
「虎に翼」では、「すんとする」という言葉を通じて、視聴者に当時の社会状況を効果的に伝えています。この言葉を使うことで、現代の視聴者にも昭和初期の女性たちが置かれていた立場を直感的に理解させる効果があります。
また、寅子が「すんとする」ことに疑問を持つ姿勢は、現代の視聴者の共感を呼びます。これにより、歴史ドラマでありながら、現代社会の課題とも結びつけて考えることができるのです。
ドラマの演出では、「すんとする」場面と寅子の反応を対比させることで、視覚的にも印象的な効果を生み出しています。
「すんとする」という表現は、言語学的にも興味深い特徴を持っています。オノマトペ(擬態語)の一種であり、音と意味が密接に結びついています。
「すん」という音は、何かが急に静まったり、引っ込んだりする様子を表現しています。これに「とする」を付けることで、その状態になろうとする動作を表現しています。
この言葉は、日本語特有の微妙なニュアンスを伝える能力を示しています。一つの短い言葉で、複雑な社会状況や心理状態を表現できるのは、日本語の特徴と言えるでしょう。
以上のように、「すんとする」という言葉は、単なるドラマの中の表現にとどまらず、日本の社会史や言語文化を考える上で重要な視点を提供しています。この言葉を通じて、私たちは過去の社会を振り返り、現代社会の課題を考えることができるのです。
「虎に翼」というドラマは、このような言葉の使用を通じて、歴史と現代をつなぐ架け橋となっています。視聴者は「すんとする」という言葉に触れることで、自分自身の日常生活や社会の中での立ち位置を見つめ直すきっかけを得ることができるでしょう。